上機嫌で何が悪い!ブログ「オーバーヒート」千葉雅也著

 言葉を使って思考する以上、言葉の選択が思考の精度を誘導することになります。この本は、その発端となる最初の言葉が、日常のちょっとした違和感のような感覚から発生している、その発生をよく描いています。その感覚を生み出す感性が非常に鋭いのです。

 例えば、われわれ関西人にはお馴染みの阪急電車「あんこ色」、この色は、意味や歴史を押し付けてきて「ウザい」となる。関西は「古くからの意味の系譜に勘が働かなければ現在もわからない。」となる。

 筆者は、言葉(ツイート)を「意味を味わうべき一皿の料理」と言います。そして、他の関西在住の常連客同士の会話について、「言う」言葉ではなく「する」言葉と表現します。「言う」言葉は、壁となって対象を見えにくくするが、「する」言葉は、「壁」ではなく、「ボールみたいなもの」と捉えます。この感覚は、関西に住む僕にとっては非常にわかりやすいです。友達同士の会話に言葉の意味なんて二の次というのは、よく陥る感覚で、リズムとタイミングが一番大事というのは昔から感じていました。

 でも、言葉が「壁」となって対象物が見えにくくなるってのは、もはやアディクトですね。

 筆者の健全さについて。LGBTは普通だ、という風潮に対しゲイを告白している筆者は、そんな風潮自体を批判する声は社会にとって必要だと、考えています。こんな文章です。「僕はそんな急展開は浅ましいと批判する人間が必要だと思った。」こういう所に僕は千葉先生(立命館大学の教授です。)の健全さを感じてなりません。この先生の思考を学んでも変な所に連れていかれないだろう、といった安心感を感じます。

 相変わらずぶっ飛んだ面白さです。特に性的表現の生々しさはえげつなく感じる一冊です。