上機嫌で何が悪い!ブログ「地球にちりばめられて」多和田葉子 著

 少し不思議なふわふわとした印象の文体、でも取り扱っている素材はシュールレアリスッテクな未来。ヨーロッパ圏(ドイツ)に永住権を有するだけあって、言語や人種に関する意識が鋭く、非常に面白い一冊。

 既に滅んでしまっている(滅んだ理由はついぞ明らかにされなかったが、原子力と自然災害を匂わせる個所があります。)日本出身のHirukoは、汎スカンジナビア語としてパンスカ語をつくろうとしています。作者の言葉に『クヌートとの会話で使うのは自分でつくった不完全な即興言語なのに、言葉が記憶の細かい襞に沿って流れ、小さな光ものを一つも見落とさずに拾いながら、とんでもない遠くまでつれて行ってくれる。パンスカは母語なんかよりずっと優れた乗り物だ。』とあります。そうか、言葉は、人を運ぶ乗り物なのか、なんと素敵な気づき。

 エスキモー出身で日本文化を浴びたいナヌーク、インド人で男性女装のアカッシュ、言語を愛するデンマーク在住の言語学科の大学院生のクヌート、ナヌークに恋するノラ。多彩な背景をもつキャラクターが美しく溶け合っていくストーリーが面白い。

 最後に、『社会は雑居ビルのようなものだ。ビルの住人たちは同じ理想を抱えて集まって来たわけではない。火事を避けたい気持ちは共有しているが、他人の内面の苦しみなどはどうでもいい。平等も人権もどうでもいい。国家レベルでは尊重される原則が犯されて、隣の人が糞尿にまみれていても、自分の家さえくさくならければ干渉しない。人の身になって感じる能力を退化させることで雑居ビルは成り立っている。』といいます。これらに作者がヨーロッパの多様性を受け容れていれ、言葉を紡ぎだしている価値観があると思いました。