上機嫌で何が悪い!ブログ「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ著 土屋政雄訳

 やっと読むことができたカズオ・イシグロ。強烈なインパクトのある小説、文句なく面白いです。全体の構成や詳細も無理している感じはなく、世界に引きずりこまれます。小学校から高校まで系列学校で育った僕にとってヘールシャムでのキャシーのスクールライフはまるでわが事のよう。

冒頭から、介護とか提供とか保護官とか頻出、全体像がわからないままちょうど中間までくると、キーワード「臓器提供」がやっとでてきます。ここでミステリー?ホラー?小説か、と思い、怖くなって一旦本を置きましたが、気になってしかたありません。そして再度読み始めると、今度は最後まで一気に読了。

この小説の最後にマダムやエミリ先生が語ったことで初めて世界の全貌が明らかになります。キャシーの切実な思いとその運命に思いを馳せると、沈鬱な思いがします。

スケールの大きさと、細やかな個人の感情への迫り方が無理なく同居する素晴らしい小説、ブッカー賞受賞作。