上機嫌で何が悪い!ブログ 「火を熾す」ジャック・ロンドン著 柴田元幸訳

 ジャック・ロンドン こんな短編小説家がいたなんて!タイトルにもなった「火を熾す」の鮮烈なこと。マイナス50度の中を歩き続けることの危険性、たった一度の判断の誤り、ー雪がたっぷり積もった木の下で火を熾してしまったことー、が生死を分けるその命の営みの危うさが、きりっとした文体で書かれている一作。短編集。

 僕は、「a piece of  steak」一枚のステーキと訳されたその短編に心を奪われました。試合後に流す老ボクサーの涙が、老いることの意味をえぐり取っています。老いるとはこういうことなんだよ、って晒してくれています。若さと引き換えに獲得した知恵をもってしても、届かない勝利。正に「世界は若さにひれ伏す」ものだと喝破されている一作です。

その他、「生の掟」等の生命の因果をめぐるストーリーは本当に面白いです。「生への執着」も入り込んでしまうと、気持ち悪くて戻しそうになるくらい素晴らしい出来と思います。

 ただ、印象に残りにくい短編なんかも、ないことはないです。