上機嫌で何が悪い!ブログ「劇場」又吉直樹著

 前作と打って変わって、主人公に鬱屈した人物を据える。その鬱屈ぶりが「辛うじてわかる」、と「訳が分からない」のボーダーラインを行ったり来たり、な一作。

 例えばこういうところは「わかる」。『金もないのになぜ腹がへるのだろう。人の親から送られた食料を食べる情けない生きもの。子供の頃、こんなみじめな大人になるなること想像もしていなかった。どこかで沙希の親に好かれたいと願う自分がいた。(中略)だが、大事な娘と暮らす甲斐性のない男を好きになる親など存在するはずがない。好きな仕事で生活がしたいなら、善人と思われるようなことを望んではいけないのだ。恥を撒き散らしていきているのだからみじめでいいのだ。みじめを標準として、笑って謝るべきだった。』

 なかなか人間は開き直り切ってしまうことはできない、どこかの時点で防衛して善人に見られたいという意識が発動してしまうよな

 自分の感情を精査して、分析して、表現する ことについて、この作家より先鋭なものをはあまり見ないです。

 世間で起きる事件やニュースや日常の諸事に対して自分の感性がいかに鈍磨しているか、また、世間に迎合しているか、阿っているか、改めて考えさせられます。